2026年9月29日、レゾナック・ホールディングスから分離した
クラサスケミカル(646A)が東証スタンダード市場に上場しました。
今回の上場は一般的なIPOとはかなり違います。
レゾナックの株主に対し、
レゾナック1株につきクラサスケミカル1株を現物配当する
「パーシャル・スピンオフ」によるものです。
とはいえ、
「レゾナックから突然もらった株だけど、このまま持っていていいの?」
と思っている株主も多いのではないでしょうか。
調べてみるとクラサスケミカルは、
単なる「レゾナックが切り離した低収益事業」ではありません。
・DOE5%を目標とする高配当政策
・九州唯一のエチレンプラント
・国内第2位のエチレン生産能力
・世界外販シェア約60%の高純度アリルアルコール
・触媒・製造技術のライセンス事業
という意外に面白い強みを持っています。
一方、現在の営業利益率は低く、中国を中心とした供給過剰や原料価格の影響を受ける典型的な景気敏感株でもあります。
この記事の内容
クラサスケミカルはなぜ突然もらえたのか
クラサスケミカルは、もともと旧昭和電工、現在のレゾナックが運営していた
石油化学事業です。
レゾナックは現在、AI・半導体向け材料などの
半導体・電子材料事業へ経営資源を集中しています。
一方、石油化学事業は巨大な設備を必要とし、
社会インフラとしての重要性が高い半面、
半導体材料のような高い利益率を出しにくい事業です。
そこでレゾナックは石油化学事業をクラサスケミカルとして独立させ、
2026年9月29日に東証スタンダード市場へ上場させました。
しかも一般的なIPOのように新株を発行して資金を集めるのではなく、
公募・売り出しを行わないダイレクトリスティングです。
レゾナック株主には、保有するレゾナック株1株につき
クラサス株1株が現物配当されます。
レゾナック株主自身に石油化学事業を直接持ってもらう
という仕組みに近いものです。
また、レゾナックは完全に関係を断つわけではなく、
スピンオフ後もクラサス株を20%未満保有する予定です。
研究開発など一部の連携も継続します。
クラサスケミカルは何をしている会社?
クラサスケミカルの本社は大分県大分市。
中心となるのが
大分石油化学コンビナートです。
主な製品は次のようなものです。
- エチレン
- プロピレン
- ポリプロピレンなどの合成樹脂
- 酢酸
- 酢酸エチル
- 酢酸ノルマルプロピル
- 高純度アリルアルコール
「エチレン」と言われても普段の生活では馴染みがありませんが、
これらから作られる化学製品は、
食品容器、自動車、家電、衣料、塗料、接着剤など、
私たちの生活のあらゆるところで使われています。
2025年12月期の売上高は
3,039億円。
従業員約900人の会社としては非常に大きな事業規模です。
クラサスケミカルの強みは何なのか
① 九州唯一のエチレンプラント
クラサスケミカルの大分コンビナートには、
九州で唯一のエチレンプラントがあります。
さらに、その生産能力は
国内第2位。
巨大な石油化学設備は簡単に新設できるものではありません。
巨額の投資だけでなく、長期間の操業ノウハウ、安全管理、
周辺企業との供給網が必要だからです。
大分コンビナートは1969年から操業しており、
長年蓄積した設備運転や保全ノウハウそのものが参入障壁になっています。
② プラントの安定稼働能力
2010年にはエチレンプラントの分解炉の一部を更新し、
エネルギー効率や原料多様化能力を改善しています。
会社によると、2022年の地震による安全停止を除き、
2014年以降エチレンプラントの停止トラブルがありません。
さらに2026年には「特定認定高度保安実施者」の認定を取得。
今後は定期修理周期を
4年から6年へ延長する計画です。
定期修理の回数が減れば、
修繕費だけでなく工場を止めている期間の販売機会損失も減らせます。
③ 高付加価値製品も持っている
クラサスを「エチレンを大量生産するだけの会社」と見るのは少し違います。
特に注目したいのが
高純度アリルアルコールです。
会社資料によると、高純度アリルアルコールでは
世界外販市場シェア約60%
を持っています。
2024年8月には生産能力も増強しており、
中国や欧州市場で販売を拡大する計画です。
大量生産型の基礎化学品だけでなく、
こうした差別化された高付加価値製品をどこまで増やせるかが、
今後の利益率改善のポイントになります。
④ 技術そのものを販売できる
個人的に特に面白いと思ったのが
製造技術・触媒のライセンス事業です。
クラサスは酢酸誘導品などで培った製造技術を、
中国やインドなどで新設される化学プラントへライセンス供与しています。
酢酸ビニルの製造技術では、
すでに3件の成約実績があります。
しかも、製造技術を提供して終わりではありません。
そのプラントで使用する触媒をクラサスから継続的に販売できれば、
設備投資の負担が比較的小さい継続収益につながります。
だからこそ、クラサスが今後伸ばそうとしている
「高付加価値製品」「触媒」「ライセンス事業」は非常に重要です。
ただし現在の業績は決して強くない
ここまで読むとかなり魅力的な会社に見えますが、
現在の利益水準には注意が必要です。
| 年度 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | EPS |
|---|---|---|---|---|
| 2024年参考 | 3,336億円 | 86.0億円 | 約50億円 | ― |
| 2025年 | 3,039億円 | 42.1億円 | 31.0億円 | 13.21円 |
| 2026年予想 | 3,234億円 | ― | 約17億円 | 7.25円 |
※2024年はレゾナック石油化学事業の承継対象部門等を基にした参考値。
2026年は会社公表の最新予想等を基に記載。
2025年は売上高3,039億円に対して営業利益42.1億円。
営業利益率を計算すると
約1.4%しかありません。
これはかなり低い水準です。
さらに2026年の会社予想では、
売上高は3,234億円へ増えるものの、
EPSは13.21円から
7.25円へ低下する見込みです。
2026年は大型定期修理やナフサ価格変動に伴う在庫評価などの特殊要因もあり、
現在の利益だけでクラサスの将来の収益力を判断するのは難しい状況です。
だからクラサスは、
過去のEPSが毎年伸びている成長株ではありません。
むしろ、
と考えたほうが分かりやすいと思います。
最大の魅力はDOE5%の配当方針
高配当株投資家として最も気になるのは、
やはり株主還元です。
クラサスケミカルは上場後の株主還元について、
DOE5%を目標に安定的な配当を実施する
という方針を打ち出しています。
DOEとは?
DOEは「株主資本配当率」です。
一般的な配当性向が
「その年に稼いだ利益の何%を配当にするか」
を見るのに対して、
DOEは
会社に蓄積された株主資本に対して何%を配当するか
を見る指標です。
石油化学のように利益が景気や原料価格によって大きく変動する会社の場合、
配当性向だけを基準にすると配当も大きく変動しやすくなります。
DOEを採用すれば、短期的に利益が落ちても
ある程度安定した配当を続けやすくなります。
「景気敏感企業だけれど、配当はなるべく安定させたい」
という会社側の意思表示と考えられます。
2026年の配当予想は12円
2026年12月期の年間配当予想は
1株12円です。
| 株価 | 年間配当 | 予想配当利回り |
|---|---|---|
| 200円 | 12円 | 6.00% |
| 220円 | 12円 | 5.45% |
| 230円 | 12円 | 5.22% |
| 250円 | 12円 | 4.80% |
| 300円 | 12円 | 4.00% |
上場初日の2026年9月29日13時台には、
株価はおおむね230円前後で推移していました。
この水準なら予想配当利回りは
約5.2%です。
高配当株として十分意識される水準だと思います。
では株価230円前後は高いのか安いのか
ここはクラサスで非常に面白いところです。
2025年末の1株純資産は
284.12円でした。
仮に株価230円なら、
PBRは約
0.81倍。
PBRだけを見ると1倍をかなり下回っています。
しかしPERを見ると全く印象が違います。
| 基準 | EPS | 株価230円の場合のPER |
|---|---|---|
| 2025年実績 | 13.21円 | 約17.4倍 |
| 2026年予想 | 7.25円 | 約31.7倍 |
| 2027年会社目標ベース | 約25.6円※ | 約9.0倍 |
※2027年会社目標の親会社株主帰属純利益約60億円を、
上場時発行済株式数約2億3,441万株で単純計算した参考値。
会社が公表したEPS予想ではありません。
つまりクラサスは、
今期利益だけを見ると割安とは言いにくいです。
2026年予想EPS7.25円に対して230円なら、
PERは30倍を超えます。
一方で会社が掲げている2027年の利益目標を達成できれば、
PERは一気に1桁台まで低下します。
「2026年の利益が低い」ことよりも、「2027年以降に本当に利益を回復できるのか」
という点です。
2027年の利益回復が最大のポイント
クラサスは中長期目標として、
次のような数字を掲げています。
| 2024年 | 2025年 | 2027年計画 | 2030年近傍 | |
|---|---|---|---|---|
| 営業利益 | 86億円 | 42億円 | 約90億円 | 100~120億円 |
| 純利益 | 50億円 | 31億円 | 約60億円 | 70~75億円 |
| ROE | 7.8% | 4.7% | 約8% | 約9% |
| ROIC | 4.5% | 2.4% | 約5% | 約6% |
最終的にはROICを
長期的に約10%まで引き上げる
ことも目標にしています。
現在のクラサスに足りないのは、
売上高ではありません。
すでに年間3,000億円以上を売り上げています。
問題は
「3,000億円売っている割に利益が少ない」
ことです。
つまり今後必要なのは単純な売上拡大ではなく、
- プラント運営コストの削減
- 定期修理周期延長による停止期間削減
- 高付加価値ポリプロピレンの拡大
- 高純度アリルアルコールの海外販売拡大
- 触媒の性能向上
- 製造技術ライセンス事業の拡大
といった
利益率の改善です。
国内石油化学再編も追い風になる可能性
国内の石油化学業界では現在、
エチレン設備の再編が進んでいます。
クラサスの会社資料によると、
国内12基のエチレンプラントのうち
4基の停止が計画されています。
中国を中心とした供給過剰によって厳しい環境が続いてきましたが、
国内の供給能力が縮小すれば、
残った設備の稼働率や採算が改善する可能性があります。
そのとき、
ここは中長期でかなり重要だと思います。
クラサスケミカルに投資するリスク
もちろん、配当利回り5%だけを見て買うのは危険です。
・中国を中心としたアジアの石油化学製品の供給過剰
・ナフサ、原油価格の急変
・円安による原料調達コスト上昇
・石油化学製品の市況悪化
・巨大設備の事故、故障、長期停止
・設備老朽化に伴う維持更新投資
・CO2排出規制強化
・DOE5%が将来も必ず維持される保証はない
特にクラサス自身が、
2030年頃までは
アジア域内の需給バランスが緩い状態が続く
と見ています。
したがって、
「中国の供給過剰がすぐに解消して石化市況が大復活する」
という前提で投資するのは危険でしょう。
レゾナックからもらった100株は売るべきか?
これは人によって判断が変わります。
レゾナックを
「半導体材料の成長企業」として保有していた投資家にとって、
クラサスのような石油化学・高配当型企業は
投資目的がまったく違います。
そのため上場直後には、
「クラサスはいらない」と考えるレゾナック株主から売りが出る可能性
があります。
会社側も、上場後には株主属性が変化する可能性があると説明しています。
逆に高配当株投資家から見れば、
- DOE5%目標
- 配当12円
- 株価230円なら利回り約5.2%
- PBR約0.8倍
- 利益回復余地
という組み合わせは、
かなり興味深い条件です。
私は100株追加購入しました
理由は、
「クラサスが必ず上がると思っているから」
ではありません。
現在の株価なら投資額自体がそれほど大きくなく、
配当を受け取りながら
低収益の石油化学会社が独立後にどこまで収益力を改善できるか
を見てみたいからです。
特に確認したいのは次の5点です。
- DOE5%の配当政策が実際に維持されるか
- 2027年営業利益約90億円を達成できるか
- 高付加価値製品の比率が上昇するか
- ライセンス・触媒事業が伸びるか
- ROICが2%台から本当に改善するか
特に営業利益は重要です。
2025年の42億円から2027年約90億円まで回復できれば、
クラサスに対する市場評価は現在とは大きく変わる可能性があります。
逆に、数年経っても営業利益が40~50億円程度のままであれば、
「高配当ではあるが低収益な石油化学会社」
という評価から抜け出せない可能性があります。
私なら株価だけで判断しない
上場直後は、
スピンオフで突然クラサス株を持つことになった株主の売却と、
高配当株として新たに買う投資家の売買がぶつかります。
そのため短期的な株価は、
企業価値以上に需給の影響を受ける可能性があります。
個人的には上場直後の数十円の値動きより、
- 営業利益
- ROIC
- 配当
- 高付加価値品の成長
- 石化業界再編
を数年間追うほうが重要だと考えています。
まとめ|「もらった株」で終わらせるには少し面白い会社
レゾナックから突然クラサスケミカル株を受け取り、
「よく分からない会社だから売ってしまおう」
と思った株主も少なくないと思います。
私も最初は、
レゾナックが半導体材料に集中するために切り離した
低収益の石油化学事業という印象が強くありました。
しかし詳しく調べてみると、
・九州唯一のエチレンプラント
・国内第2位の生産能力
・高い設備信頼性
・高純度アリルアルコール世界外販シェア約60%
・独自の触媒技術
・製造技術ライセンス事業
・DOE5%を目標とする株主還元
・国内石油化学再編による生き残り余地
一方で、
現在の営業利益率は低く、
中国の供給過剰やナフサ価格など自社だけではコントロールできない要素も多い会社です。
したがってクラサスは、
安定成長株として評価する銘柄ではありません。
私が注目しているのは、
「売上3,000億円を持つ低収益事業が、
独立上場によってどこまで稼げる会社へ変わるのか」
という点です。
2027年の営業利益約90億円、
その先の100~120億円という会社目標に近づいていけば、
DOE5%による高配当に加えて、
利益成長というもう一つの魅力が加わります。
逆に利益改善が進まなければ、
現在の高配当も永遠に安全とは言えません。
私はまず200株を保有して、
配当を受け取りながら今後の決算を追っていく
ことにしました。
スピンオフでもらった株だからとすぐに売るのではなく、
少なくとも一度、
「どんな会社なのか」を調べてから判断しても遅くない銘柄だと思います。
参考資料
- クラサスケミカル「中長期の事業戦略および事業目標について」2026年5月15日
- クラサスケミカル「2026年12月期の業績予想について」2026年9月7日
- 日本取引所グループ「クラサスケミカル 新規上場申請のための有価証券報告書」
- 日本取引所グループ「新規上場日の初値決定前の気配運用について」
- レゾナック・ホールディングス「クラサスケミカルのパーシャル・スピンオフ」関連資料
※本記事は2026年9月29日時点で公表されている資料を基に作成しています。
株価や配当予想、業績予想は今後変更される可能性があります。
※本記事は筆者個人の投資記録・企業分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


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