「今の化学株は、昔の海運株のように大きく化ける可能性があるのか?」
そんな疑問から、三菱ケミカル、三井化学、UBE、東ソー、旭化成の5社を調べてみました。
最初に結論を書くと、化学株全体が2020年前後の海運株のような「とんでもない割安状態」になっているわけではありません。
ただし、面白い会社はあります。
特に注目したいのが、三井化学と東ソーです。
理由は簡単です。
会社全体ではしっかり利益を出しているのに、石油化学など一部の事業がほとんど利益を出していません。
つまり、今でも会社は稼いでいる。それなのに、不調部門が普通の状態まで戻れば、さらに利益が増える可能性があります。
「今の利益が少ない会社」を探すのではなく、
「会社全体は稼いでいるのに、一部の事業だけ眠っている会社」
を探すのが今回のポイントです。
そもそも、なぜ化学株を調べたのか
きっかけは、昔の海運株です。
海運株は長い間、あまり人気がありませんでした。
船が多すぎて運賃が上がらず、会社もあまり儲かりませんでした。
ところがその後、供給が減ったところへ世界的な物流需要が増え、運賃が急上昇。
商船三井、日本郵船、川崎汽船などの利益が一気に増え、株価も大きく上昇しました。
船が多すぎる
↓
運賃が安い
↓
会社が儲からない
↓
船を増やさなくなる
↓
物流需要が回復
↓
船が足りなくなる
↓
運賃上昇・利益急増
では、今の日本株に似た業界はないのでしょうか。
そこで目に入ったのが、石油化学です。
石油化学も「作りすぎ」で苦しんでいる
石油化学とは、簡単に言えばプラスチックや自動車部品、包装材などの材料を作る産業です。
代表的な原料が「エチレン」です。
エチレンからポリエチレンなどを作り、食品包装、レジ袋、パイプ、家電、自動車部品など幅広い製品に使われます。
問題は、中国などで工場が大量に増えたことです。
製品がたくさん作られれば、価格は上がりにくくなります。
その一方、巨大な化学工場は簡単には止められません。
そのため、
↓
価格競争が起きる
↓
利益が減る
↓
工場の稼働率が下がる
↓
さらに採算が悪くなる
という状況になっていました。
ところが最近、日本の化学メーカーは工場を統合したり、設備を止めたりする動きを始めています。
つまり、海運と少し似た
「供給過剰を減らす段階」
に入っています。
今回調べた5社
| 会社 | 株価 | PER | PBR | 予想配当 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 三菱ケミカル | 1,189円 | 約12.7倍 | 約0.89倍 | 32円 | 大規模な構造改革 |
| 三井化学 | 2,186円 | 約17.6倍 | 約0.90倍 | 75円 | 石化部門が赤字 |
| UBE | 3,452円 | 約13.7倍 | 約0.76倍 | 160円 | 高配当+事業転換 |
| 東ソー | 2,599.5円 | 約13.6倍 | 約0.95倍 | 100円 | 基礎素材が低迷 |
| 旭化成 | 1,600円 | 約13.5倍 | 約1.02倍 | 44円 | 住宅・医療が好調 |
一見すると、PBR1倍前後の会社が多く、割安に見えます。
ただし、PBRが低いだけで買うのは危険です。
業績がずっと悪ければ、PBR0.7倍でも安くない可能性があります。
今回調べたいのは、
という点です。
「平常利益」とは何か
少し難しく聞こえる言葉ですが、意味は単純です。
景気が特別良い時でも悪い時でもない、普通の年ならどれくらい稼げるのか。
これが「平常利益」です。
景気敏感株は、ある年だけ利益が急増したり、逆に急減したりします。
そのため直近1年間だけを見ると、本当に安いのか分かりにくいのです。
そこで過去約10年間の利益を見ることで、会社の「普通の稼ぐ力」を考えます。
好景気:利益1,500億円
普通:利益1,000億円
不況:利益300億円
なら、300億円だけを見て
「この会社は稼げない」と判断するのは早い。
普通の1,000億円まで戻れるかを見るという考え方です。
では各社を見ていきます。
三井化学|一番分かりやすい「回復待ち」
今回かなり気になった会社
三井化学は、今回の5社の中で最も話が分かりやすい会社でした。
三井化学には、自動車向け材料、ICT関連、医療・ヘルスケアなど、利益を稼いでいる事業があります。
その一方で、石油化学などを扱う部門が赤字です。
2025年度、この部門の利益は、
▲184億円
でした。
つまり184億円の赤字です。
ところが会社は2026年度、この赤字を
▲30億円
まで減らす計画です。
▲184億円
2026年度予想
▲30億円
将来
黒字化できるか?
これが三井化学を見る上で一番重要な部分です。
会社全体としてはすでに1,000億円前後の利益を出せる会社です。
それなのに、1つの部門が大きな赤字になっています。
もしこの部門が赤字ゼロになるだけでも、全社利益は改善します。
さらに昔のように数百億円を稼ぐ状態まで戻れば、利益の上乗せはかなり大きくなります。
今でも会社全体は利益を出している
+
赤字部門がある
+
その赤字が縮小中
つまり、「今の利益+回復余地」があります。
配当も以前より安心感がある
三井化学はDOE3%以上を目安に配当しています。
DOEとは、会社が持っている純資産に対して、どれだけ配当を出すかという考え方です。
難しく考える必要はありません。
「一時的に利益が減っても、ある程度は配当を維持しよう」
という仕組みに近いものです。
2027年3月期の予想配当は75円です。
景気敏感株は昔、市況が悪くなると減配しやすい会社が多かったのですが、DOEを採用する企業が増えたことで、配当の安定性は以前より高まっています。
東ソー|一番「眠っている利益」が見えやすい
今回特に面白かった会社
東ソーはさらに分かりやすいです。
2025年度の会社全体の営業利益は、
955億円
です。
これだけ見ると、普通に稼いでいる会社です。
ところが、石油化学などの基礎素材部門を見ると、営業利益はほぼゼロに近い状態です。
全社営業利益955億円のうち、基礎素材部門の利益はわずか数億円程度です。
会社全体の営業利益
955億円
しかし
基礎素材部門
ほぼ利益ゼロ
では、残りの利益はどこから出ているのでしょうか。
バイオサイエンス、高機能材料、水処理などです。
つまり東ソーは、石油化学が不調でも、他の事業だけでかなり利益を出しています。
ここが非常に面白いところです。
昔は基礎素材でも数百億円稼いでいた
現在はほぼ利益ゼロですが、過去には基礎素材部門だけで数百億円を稼いだ年があります。
もちろん過去最高水準まで戻るとは限りません。
しかし、現在のほぼゼロから200億円程度まで戻るだけでも、会社全体の利益はかなり増えます。
基礎素材:約0億円
仮に正常化
200~300億円
その分が全社利益に上乗せされる可能性
しかも東ソー自身も、2027年度に全社営業利益1,400億円を目標としています。
会社側も基礎素材の回復を想定しています。
今でも955億円稼いでいる。
なのに石油化学はほぼ利益ゼロ。
石油化学が普通に戻れば、今の利益に上乗せできる。
今回調べた5社の中では、個人的に一番分かりやすい「利益回復余地」でした。
三菱ケミカル|昔に戻るのではなく会社を作り直している
構造改革型
三菱ケミカルは、三井化学や東ソーとは少し違います。
この会社は、単純に「石油化学市況が回復すれば利益が戻る」という会社ではありません。
現在、大規模な事業改革を進めています。
田辺三菱製薬を売却するなど、会社そのものを大きく変えています。
そのため、10年前の三菱ケミカルと現在の三菱ケミカルを単純比較するのは難しいです。
「昔の利益に戻る会社」ではなく、
「別の会社に作り変わっている途中」
低採算事業を見直し、より利益率の高い事業へ資金を振り向けています。
そのため、ここは「次の海運」候補というより、
構造改革が成功すれば評価が変わる株
と考える方が分かりやすいでしょう。
配当には32円の下限
年間配当については32円を下限とする方針を出しています。
これは株主としては安心材料です。
ただし現在の利回りは3%を下回るため、純粋な高配当株として見ると、UBEや東ソーなどの方が利回りは高くなります。
UBE|「次の海運」より高配当+事業転換
高配当型
UBEは今回の5社の中で、配当面が一番目立ちます。
2027年3月期の予想配当は、
年間160円
です。
株価3,452円なら、利回りは約4.6%になります。
かなり高い水準です。
ただしUBEも、10年前と今では会社の中身が変わっています。
セメント事業を分離しており、現在は化学事業中心の会社になっています。
そのため、
「昔の利益まで戻れば安い」
という見方は適していません。
UBEが目指しているのは、より利益率の高いスペシャリティ化学の比率を増やすことです。
昔の事業に戻る
ではなく
低収益事業を減らす
↓
高収益の化学事業を増やす
↓
配当も増やす
DOE3.5%以上
UBEはDOE3.5%以上を掲げ、さらに将来的に4%を目指しています。
簡単に言えば、
「会社の利益が少し上下しても、純資産を基準にある程度しっかり配当する」
という方針です。
そのためUBEは、石油化学の大反転を狙う株というより、
高配当を受け取りながら企業改革を待つ株
という印象です。
旭化成|すでに会社全体は好調
安定型
旭化成も石油化学事業を持っていますが、今回の5社の中では少し性格が違います。
すでに会社全体の利益は高い水準です。
2026年3月期の営業利益は、
2,312億円
でした。
さらに2027年3月期も2,480億円を予想しています。
なぜ石油化学が苦しいのに利益を出せるのでしょうか。
理由は、住宅とヘルスケアです。
旭化成は化学だけの会社ではありません。
住宅
+
医療・ヘルスケア
+
化学・素材
この3本柱があるため、石油化学が不調でも会社全体への影響を抑えられます。
逆に言えば、旭化成は「業績の底から一気に復活する株」ではありません。
すでに稼いでいる会社に、石油化学の回復が上乗せされる可能性がある会社です。
大化け狙いというより、
安定した利益+素材事業の回復
配当についてもDOE3%を目安とする累進配当方針を掲げています。
累進配当とは、基本的に配当を減らさず、維持または増配していく考え方です。
高配当というより、配当の安定性を重視する会社です。
5社をできるだけ簡単に整理
| 会社 | 今の状態 | 将来の利益増加ポイント | 分かりやすい特徴 |
|---|---|---|---|
| 三井化学 | 石化部門が赤字 | 赤字縮小・黒字化 | 回復余地が大きい |
| 東ソー | 全社は好調、基礎素材はほぼゼロ | 基礎素材の回復 | 今でも稼ぎながら上乗せ余地 |
| 三菱ケミカル | 大規模改革中 | 低採算事業の改善 | 企業改革型 |
| UBE | 事業転換中 | 高収益化 | 高配当 |
| 旭化成 | すでに好調 | 素材部門の回復 | 安定型 |
結局、化学株は「次の海運」なのか
ここまで調べた結果、私は少し見方が変わりました。
化学業界全体が昔の海運株のように、
「誰にも期待されず、とんでもなく安く放置されている」
わけではありません。
PERを見ると、多くの会社が10倍台です。
会社全体の利益も、完全にどん底という会社ばかりではありません。
そのため、海運株のように利益が数倍、株価も数倍になることを前提に考えるのは危険です。
しかし、化学株には海運とは違う面白さがあります。
業界全体が不調
↓
市況回復
↓
会社全体の利益が急増
成長事業はすでに稼いでいる
+
石油化学だけ不調
↓
石油化学まで回復
↓
会社全体の利益がさらに増える
こちらの方が爆発力は小さいかもしれません。
しかし、その代わりリスクも抑えやすくなります。
今回、一番気になったのは東ソーと三井化学
5社の中で特に面白いと感じたのは、東ソーと三井化学です。
東ソー
東ソーは会社全体ですでに約955億円の営業利益があります。
それなのに、基礎素材部門はほぼ利益を出していません。
もしこの部門が200億円、300億円と利益を出せるようになれば、会社全体の利益がさらに増える可能性があります。
今でも十分稼いでいる
+
不調部門が回復すればさらに利益増
この構造はかなり分かりやすいです。
三井化学
三井化学は逆に、石油化学部門が赤字です。
▲184億円だった赤字を、会社はまず▲30億円まで減らそうとしています。
その後黒字化すれば、それだけでも利益改善になります。
赤字部門がある
↓
赤字縮小中
↓
黒字化すれば利益増
こちらも投資ストーリーが非常に分かりやすいです。
UBEは高配当株として面白い
一方、配当重視ならUBEが目立ちます。
予想配当160円、利回り約4.6%。
DOE3.5%以上を掲げています。
ただし株価はすでに年初来安値からかなり上昇しています。
そのため、
「市場から完全に見放された株を底値で拾う」
という状態ではありません。
高配当を受け取りながら、企業改革の成果を待つ会社と考える方がよさそうです。
低PBRだけでは分からない
今回の分析で一番感じたのは、PBRだけでは会社の魅力は分からないということです。
PBR0.7倍だから安い。
PBR1倍割れだから買い。
それだけでは不十分です。
大事なのは、
その原因は一時的なのか。
普通の状態に戻った時、どれくらい利益が増えるのか。
ここまで考える必要があります。
特に景気敏感株では重要です。
今後チェックしたい3つの数字
今後、化学業界を見る時は、難しい数字をたくさん追う必要はないと思います。
まずは次の3つだけでも十分です。
① エチレン設備の稼働率
工場がどの程度動いているかを見る数字です。
稼働率が上がれば、需給改善の可能性があります。
② 各社の石油化学部門の利益
三井化学ならB&GM、東ソーなら基礎素材。
この利益が改善しているかを確認します。
③ 配当
利益が回復しても、株主に還元されなければ高配当投資としての魅力は弱くなります。
まとめ|化学株は「次の海運」ではない。でも面白い
今回、三菱ケミカル、三井化学、UBE、東ソー、旭化成の5社を調べました。
調べる前は、
「化学業界全体が低PBRなので、昔の海運株のようなお宝セクターかもしれない」
と考えていました。
しかし実際には少し違いました。
会社全体の利益は、すでにかなり回復している企業もあります。
そのため、業界全体が極端に割安とは言いにくいです。
一方で、会社の中身を見ると、まだ十分に回復していない事業があります。
東ソー
全社955億円の利益があるのに、基礎素材はほぼ利益ゼロ。
三井化学
石油化学部門が▲184億円の赤字。現在改善中。
三菱ケミカル
大規模な企業改革の途中。
UBE
高配当+高収益事業への転換。
旭化成
すでに好調。素材事業回復が上乗せ要因。
そのため、今回の結論はこうなります。
化学株は「次の海運」そのものではない。
しかし、
「今でも利益を出している会社の中に、まだ眠っている利益がある」
という点では非常に興味深い業界です。
今後、エチレン設備の統廃合が進み、石油化学の需給が改善してくれば、三井化学や東ソーなどの利益に変化が出てくる可能性があります。
高配当株投資では、現在の利回りだけを見るのではなく、
「将来、利益と配当を増やせる余地が残っているか」
という視点でも見ていきたいと思います。
参考資料
・三菱ケミカルグループ IR資料
https://www.mcgc.com/ir/
・三井化学 IR資料
https://jp.mitsuichemicals.com/jp/ir/
・東ソー IR資料
https://www.tosoh.co.jp/ir/
・UBE IR資料
https://www.ube.com/ube/ir/
・旭化成 IR資料
https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/
・株価・PER・PBR・予想配当等:Yahoo!ファイナンス
本記事は筆者自身の情報整理・投資研究を目的としたものであり、特定銘柄の購入・売却を推奨するものではありません。株式投資には元本割れのリスクがあります。最新の決算・IR資料をご確認のうえ、ご自身の判断と責任で投資してください。


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