第一三共はなぜ下落?PER21倍・配当利回り3%台へ|累進配当と2030年EPS260円を分析

個別株分析

第一三共(4568)の株価が、年初来高値から大きく下落しています。

2026年1月には3,625円まで上昇していましたが、
6月5日には一時2,390円まで下落しました。

ただし、ここは少し注意が必要です。

第一三共の株価は現在も安値を更新し続けているわけではありません。
6月の2,390円を底に、足元では2,800円台後半まで持ち直しています。

直近でも8月28日には2,931円まで上昇する場面があり、
大幅下落後の戻りを試している状況です。

では、第一三共はなぜここまで売られたのでしょうか。
そして現在の株価は、長期投資家にとって魅力的な水準なのでしょうか。

この記事のポイント

第一三共は「業績が崩れて株価が下がっている」というより、

ADCに対する非常に高かった成長期待が修正され、株価評価が低下した

と見る方が実態に近いと思います。

一方、売上成長は続いており、
株主還元も累進配当+調整後DOE10%以上へ強化。
株価も安値から少し戻り始めています。

第一三共の株価は「下落後に少し戻している」

まず現在の株価の位置を整理しておきます。

2026年年初来高値 3,625円
2026年年初来安値 2,390円
9月1日昼時点 2,800円台後半
予想PER 約21倍
PBR 約3.1倍
年間配当予想 100円
予想配当利回り 約3.5%

※株価・PER・PBR・配当利回りは2026年9月1日時点の概算です。
株価変動により変化します。

年初来高値から見れば依然としてかなり低い水準ですが、
年初来安値2,390円からはすでに2割程度戻しています。

つまり現在の第一三共は、
「暴落の真っただ中」というより、
大幅下落後に株価が戻り、底固めを試している段階
と見る方が近そうです。

もちろん、これだけで底打ちしたと断定することはできません。
ただ、6月の安値時点とは株価の状況が少し変わってきています。

なぜ第一三共の株価は大きく下がったのか

第一三共の株価下落を理解するうえで、
まず知っておきたいのが「ADC」です。

そもそもADCとは?


ADC=抗体薬物複合体(Antibody Drug Conjugate)

のことです。

かなり簡単に言えば、

「がん細胞を見つける抗体」と「がん細胞を攻撃する薬」を組み合わせた治療薬

です。

抗体を使って狙ったがん細胞まで薬を運び、
強力な薬剤をできるだけ標的へ届ける仕組みです。

第一三共が特に強みを持つのが、
DXd ADCと呼ばれる独自技術です。

世界的な大型薬となったエンハーツも、
このDXd ADC技術から生まれています。

かなり簡単にまとめると

第一三共は、

「がん細胞へ薬を届けるADC技術」を大きな成長エンジンにしている会社

と考えると分かりやすいでしょう。

① ADC供給計画の見直し

第一三共はDXd ADCの大幅な需要拡大を想定し、
自社工場への投資だけでなく、
外部の医薬品製造受託機関(CMO)とも長期契約を結び、
生産能力を先行して確保していました。

しかし臨床試験結果や対象患者数、上市時期などを改めて見直した結果、
当初想定した最大需要ほどの生産能力が必要ではなくなりました。

その結果、CMOへの損失補償や設備関連の減損など、
大きな一過性費用が発生しました。

問題は一時損失だけではありません。

投資家からすると、
「ADCの将来需要を強気に見積もりすぎていたのではないか」
という疑問が生まれます。

この不安が、それまで第一三共に付いていた高い成長プレミアムを
引き下げる一因になったと考えられます。

② 後続ADCがすべて成功するとは限らない

第一三共にはエンハーツだけでなく、
ダトロウェイ、HER3-DXd、I-DXdなど複数のADCがあります。

しかし医薬品開発は、
臨床試験がかなり進んでも必ず成功するわけではありません。

HER3-DXdでは、
EGFR変異非小細胞肺がんを対象とした米国での承認申請を自主的に取り下げています。

ここは冷静に見たい

「DXd ADCがすべて大型薬になる」という前提で第一三共を評価するのは危険です。
一方で現在は市場の期待値も以前より低下しているため、
後続薬が成功すれば株価の再評価余地も生まれます。

最新決算は本当に悪いのか?

項目 前年同期比
売上収益 +21.1%
コア営業利益 +6.2%
営業利益 ▲12.0%
親会社帰属四半期利益 ▲19.7%

数字を見ると、売上収益は21.1%増です。

エンハーツやダトロウェイを中心に、
がん領域そのものは依然として成長しています。

一方で、エンハーツの販売が増えると、
提携するアストラゼネカとのプロフィット・シェア関連費用も増加します。

研究開発費も増えているため、
売上の増加がそのまま同じ割合で利益増加につながるわけではありません。

純利益減少は一時的なのか?

今期予想を見ると、
純利益だけが減っているように見える点も気になります。

ただし、この数字も単純に
「本業が悪化したから減益」
と見るべきではありません。

2025年度はADC供給計画の見直しなどによる巨額の一過性費用が発生する一方、
税効果などによって法人税負担が特殊な水準となりました。

そのため前年との比較では、
税引前利益や純利益の動きが通常より分かりにくくなっています。

私ならここを見る

第一三共では一過性損益の影響が大きいため、

コア営業利益・EPS・主力製品の売上成長

を合わせて見た方が、本業の方向性を判断しやすいと思います。

「純利益が減っているから成長が止まった」
と単純に判断するのは少し違うでしょう。

第一三共は株主還元意識がかなり強くなった

今回第一三共を調べていて、
私が特に印象に残ったのが株主還元の変化です。

2026年3月期の年間配当78円に対し、
2027年3月期は年間100円を予定しています。

現在の株価水準なら、
予想配当利回りは約3.5%です。


第6期中期経営計画の株主還元方針

  • 累進配当
  • 調整後DOE10%以上
  • 成長投資と累進配当を優先
  • 状況に応じて機動的な自己株式取得

累進配当とは?

累進配当とは、
原則として配当を減らさず、維持または増配していく方針です。

将来の配当を絶対に保証するものではありませんが、
会社側が配当の安定性をかなり重視する方針になったことが分かります。

DOEとは?

DOEは株主資本配当率です。

配当性向が
「その年に稼いだ利益の何%を配当に回したか」
を見るのに対して、
DOEは会社に積み上がった株主資本を基準に配当を見る指標です。

なぜDOEを使うのか?

医薬品会社では研究開発費や一時損失によって、
年度ごとの純利益が大きく変動する場合があります。

その年の利益だけを基準にする配当性向より、
DOEを使う方が配当を安定させやすい
という特徴があります。

第一三共が
調整後DOE10%以上+累進配当
まで掲げたことからも、
株主還元への意識はかなり強くなったと感じます。

配当を増やして将来の成長性は大丈夫なのか?

ここは長期投資家として重要です。

株主還元を増やすこと自体は嬉しいですが、
成長企業が研究開発を削って配当ばかり増やしてしまえば本末転倒です。

ただし、現在の第一三共はそうではありません。

研究開発費も引き続き増えており、
DXd ADCや次世代の創薬候補へ巨額の資金を投入しています。

現在の第一三共は

「成長投資を止めて配当株になった」のではなく、

研究開発を続けながら株主還元も強化する

方向へ進んでいます。

成長の柱① エンハーツにはまだ拡大余地がある

第一三共の成長を語るうえで外せないのが、
エンハーツです。

すでに世界的な大型製品ですが、
まだ成長が終わった薬ではありません。

新薬は同じ薬でも対象となるがんや治療段階を広げる
「適応拡大」によって、
売上をさらに伸ばせる可能性があります。


後期治療

一次治療

早期治療

他のがん種へ適応拡大

エンハーツがこの流れで対象患者を広げられれば、
第一三共の利益成長を今後も支える可能性があります。

成長の柱② ダトロウェイが第二の柱になるか

次に重要なのがダトロウェイ(Datroway)です。

エンハーツに続くDXd ADCとして、
乳がんや非小細胞肺がんなどで承認・開発が進んでいます。

第一三共がさらに強い企業になるには、
「エンハーツ一本足」から脱却できるか
が非常に重要です。

ダトロウェイが第二の大型製品へ育つことができれば、
第一三共への市場評価も変わってくるでしょう。

成長の柱③ I-DXdにも注目

さらに注目したいのが、
イフィナタマブ デルクステカン(I-DXd)です。

B7-H3を標的とするADCで、
小細胞肺がんをはじめ複数のがん種で開発が進められています。

進展型小細胞肺がんでは、
米国で承認申請が受理される段階まで進んでいます。


理想的な成長ストーリー

エンハーツ

ダトロウェイ

I-DXd

この3つが大きく育てば、
第一三共の収益源はかなり強固になります。

ただし医薬品開発には常に失敗リスクがあります。

そのため、
後続ADCがすべて成功することを前提に株価を考えない
ことも大切です。

2030年度目標はかなり強い

第一三共は第6期中期経営計画で、
2030年度にかなり強い成長目標を掲げています。

指標 2030年度目標
売上収益 3兆円以上
営業利益 6,000億円以上
EPS 260円以上
調整後DOE 毎年度10%以上
配当方針 累進配当

現在の今期予想EPSは140円弱です。

そこから2030年度に260円以上ですから、
会社は数年間でEPSを大幅に伸ばす計画です。

前回中計はかなり上振れている

中期経営計画は当然ながら、
必ず達成されるものではありません。

ただ、第一三共は前回の第5期中計で掲げた
売上収益1兆6,000億円、がん領域売上6,000億円以上という目標に対し、
2025年度には売上収益2兆1,230億円まで成長しています。

円安の追い風もあったため、
すべてを実力だけと見るべきではありません。

それでもエンハーツの世界的成長によって、
第一三共が企業規模を大きく拡大してきたことは確かです。

2030年のEPSから将来株価を考えてみる

現在の株価が高いのか安いのかを見るため、
将来EPSを3つのケースに分けて考えてみます。

2030年EPS PER15倍 PER20倍 PER25倍
弱気:180円 2,700円 3,600円 4,500円
標準:220円 3,300円 4,400円 5,500円
会社目標:260円 3,900円 5,200円 6,500円

※EPS180円・220円は比較用に筆者が置いた仮定であり、会社予想ではありません。
将来PERも金利、成長率、治験結果、市場環境などで大きく変動します。

この表を見ると、
第一三共への投資で最も重要なのは
「現在PERが21倍だから安いか高いか」だけではない
ことが分かります。

本当に重要なのは、
2030年にEPSをどこまで伸ばせるかです。

会社目標のEPS260円を達成し、
その時点でもPER20倍が許容されるなら、
単純計算では株価5,200円となります。

一方で成長が鈍化すれば、
現在株価からあまり上昇しない可能性もあります。

株価が戻っている今から買っても遅くない?

6月安値2,390円から見ると、
第一三共はすでにかなり反発しています。

その意味では、
「一番安いところを買える局面」はすでに過ぎている可能性
があります。

一方、年初来高値3,625円と比べれば、
まだかなり下の水準です。

私なら現在の株価について、
「暴落しているから買う」というより、

株価が大きく調整したことで、将来のEPS成長と配当を以前より現実的な価格で買えるようになった

と考えます。

ただし底打ち確認とは別の話

足元では株価が戻っていますが、
これだけで完全に底打ちしたとは判断できません。
治験結果や決算によって株価が大きく動きやすいのが製薬株です。

もちろん第一三共にもリスクはある

  • エンハーツへの依存度がまだ高い
  • 後続ADCの臨床試験失敗リスク
  • 巨額の研究開発費が必要
  • 提携先とのプロフィット・シェア費用
  • ADC需要予測と生産能力のズレ
  • 米国を中心とする薬価政策
  • 為替変動の影響
  • PER約21倍で絶対的な低PER株ではない

第一三共は「高成長株」から「増配成長株」へ?

第一三共というと、
以前はエンハーツを武器に世界で成長する
高PERの成長株
という印象が強い会社でした。

しかし現在は少し姿が変わってきています。

・配当利回り 約3.5%

・累進配当

・調整後DOE10%以上

・自己株式取得も活用

・2030年度EPS260円以上を目標

・研究開発投資も継続

私が株式投資で重視したい
「配当+利益成長」
という考え方とも相性の良い企業像になってきています。

まとめ|大幅下落後に反発、それでも長期では成長力が重要

第一三共は年初来高値3,625円から大きく下落し、
6月には2,390円まで売られました。

ただし現在は2,800円台後半まで戻しており、
「下落し続けている銘柄」という状況からは少し変化しています。

株価下落の背景には、
ADC供給計画の見直し、後続パイプラインへの期待低下、
大きな一過性費用などがありました。

一方で最新決算では売上成長が続いており、
エンハーツやダトロウェイを中心とするがん事業そのものが崩れたわけではありません。

さらに、
累進配当+調整後DOE10%以上
と株主還元もかなり強くなっています。


私が今後見るポイント

  1. エンハーツが適応拡大で成長を続けるか
  2. ダトロウェイ・I-DXdが第二、第三の柱になるか
  3. EPSが2030年度260円へ向けて伸びるか
  4. 安値からの株価回復が業績を伴ったものになるか

現在のPER約21倍を見て、
「ものすごく割安」とまでは言いません。

また、2,390円からすでに株価が戻しているため、
最安値圏でもありません。

それでも、以前よりバリュエーションが低下し、
配当利回りが3%台半ばまで上昇。
累進配当も導入されました。

第一三共を単なる高成長の製薬株ではなく、
「増配も期待できる成長株」
として見ると、
長期投資家にとって研究する価値の高い銘柄だと私は感じています。

主な参考資料

  • 第一三共 2026年度 第1四半期決算資料
  • 第一三共 2025年度決算資料
  • 第一三共 第6期中期経営計画
  • 第一三共 株主還元関連資料
  • 第一三共 新薬開発パイプライン
  • Yahoo!ファイナンス 第一三共(4568)株価情報

免責事項

本記事は公開情報をもとに筆者個人の考えをまとめたものであり、
特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
株式投資には株価下落や元本割れのリスクがあります。
投資判断は最新の決算資料・適時開示等をご確認のうえ、
ご自身の責任でお願いいたします。

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