日本は本当に借金大国?米国と違う国債の計算方法とIMFの新基準を検証

経済・マーケット

最近、日本の財政について考えるきっかけになる2本の動画を見ました。

一つは中田敦彦さんが、日本の巨額な政府債務や円安、金利上昇のリスクについて解説している動画。
もう一つはエコノミストの会田卓司さんが、「日本の財政は海外と違うルールで表示されているため、実態以上に悪く見えている」と説明している動画です。

同じ日本経済を見ているのに、なぜこれほど結論が違うのでしょうか。
財務省、IMF、米国政府の資料まで確認してみると、
日本の財政には「数字そのもの」と「数字の見せ方」を分けて考えた方がよい問題があることが分かりました。

日本は「予算の4分の1が借金返済」は本当なのか

まず、2026年度の日本の一般会計予算を見てみます。

項目 2026年度 割合
一般会計歳出 約122.3兆円 100%
国債費 約31.3兆円 25.6%
うち債務償還費 約18.2兆円 14.9%
うち利払い等 約13.1兆円 10.7%

財務省の資料を見ると、確かに「国債費31.3兆円、歳出の25.6%」です。

「日本は国家予算の4分の1以上を、過去の借金返済に使っている」

この数字だけなら、そう感じても不思議ではありません。

しかし31.3兆円すべてが借金の利息ではありません。
約18.2兆円は債務償還費、つまり国債の元本償還です。
利払い等は約13.1兆円です。

ここに、会田卓司さんが指摘している重要な論点があります。

日本独自の「国債60年償還ルール」とは

日本には、建設国債や特例国債などについて、借換債を発行しながら60年間で現金償還していく
「60年償還ルール」があります。

10年国債が満期になったからといって、その時点ですべてを税金で返済するわけではありません。
実際には新しい国債に借り換えながら、一部ずつ償還していきます。

ここが重要

国債の満期が来ることと、その金額すべてを税金で返さなければならないことは同じではありません。
国は国債を借り換えながら財政を運営しています。

米国では国債の元本返済を「歳出」に入れない

この点を米国と比較すると違いが分かりやすくなります。

米国政府の会計では、政府による借り入れと国債元本の返済は
「means of financing(資金調達手段)」として扱われ、
原則として連邦予算の歳入・歳出には含めません。

一方、利払いは政府にとって実際のコストなので予算上の支出になります。

日本:利払い+元本償還を含めて「国債費」として表示

米国:元本返済は資金調達として扱い、利払いを支出として計上

したがって、
「日本は歳出の25.6%が国債費だから、海外より圧倒的に財政が厳しい」
と単純比較するのは適切ではありません。

日本の2026年度予算で海外との比較を考えるなら、
31.3兆円という国債費全体だけでなく、
約13.1兆円の利払い等を分けて見る必要があります。

日米で細かな会計定義は異なりますが、
「国債費25.6%」だけを取り出して海外と比較すると誤解を招きやすい
という会田さんの指摘には、かなり根拠があると感じます。

IMFも2026年、日本の政府債務の計算方法を変更した

今回調べて特に興味深かったのが、IMF(国際通貨基金)の2026年の変更です。

IMFは従来、日本の一般政府債務について
「非連結・市場価格ベース」の数字を使っていました。

ところが2026年の対日審査では、
国際比較可能性を改善するためとして、

非連結・市場価格ベース

連結・額面価格ベース

へ変更しました。

「連結」とは、政府部門内部で持ち合っている債権と債務を相殺する考え方です。

例えば政府部門に含まれる社会保障基金などが国債を保有している場合、
政府全体で見れば「政府が政府に借りている」部分になります。

IMFは、この部分を整理した方が他国との比較に適していると判断しました。

国際比較できる基準でも総債務はGDP比約207%

IMFの2026年対日審査では、2025年7~9月期の日本の一般政府総債務は、
新しい連結・額面価格ベースでGDP比約207%とされています。

従来よく報道されてきた「GDP比250%前後」という数字より、かなり低くなります。


「海外と比較しやすい基準に直すと、日本の政府債務比率はかなり下がる」という指摘には根拠があります。

ただし、GDP比207%は依然として大きな数字です。

そのため、
「海外と同じ計算方法にすれば、日本にはほとんど借金がない」
とまで言ってしまうのは正確ではないと思います。

G7と比べると、日本の総債務はやはり突出している

では、約207%という数字は海外と比べてどの程度なのでしょうか。

207%は2025年7~9月期の数字なので、国際比較では時点をそろえるため、
IMF「世界経済見通し(WEO)2026年4月版」の2026年見通しを使って比較します。

一般政府総債務/GDP
日本 204.4%
イタリア 138.4%
米国 125.8%
フランス 118.4%
カナダ 110.7%
英国 103.6%
ドイツ 64.6%

※IMF「World Economic Outlook, April 2026」の2026年見通し。一般政府総債務のGDP比。

総債務だけを比べれば、日本はG7の中でも突出しています。

つまり、IMFが計算方法を変更して従来の250%前後から200%程度へ下がったとしても、
「日本の総債務が少ない国になった」わけではありません。

ただし、ここからもう一段踏み込んで政府の資産まで考えると、
国際比較の見え方はかなり変わってきます。

政府の資産を差し引くと、さらに景色が変わる

国の財政を見るとき、もう一つ忘れてはいけないのが
政府が保有している資産です。

企業を分析するとき、借金だけを見て財務状態を判断することはありません。
現金や有価証券などの資産と負債の両方を確認します。

政府も同じで、日本政府には巨額の負債がある一方、かなり大きな金融資産もあります。

IMFの2026年対日審査では、債務性の金融資産を差し引いた一般的な意味での純債務は
GDP比約137%とされています。

さらに、政府が保有する株式や投資信託なども金融資産として広く考慮すると、
2025年7~9月期のネットの負債はGDP比約89%まで低下します。

見方 GDP比 意味
一般政府総債務 約207% 政府の負債を中心に見る
通常の純債務 約137% 債務性金融資産などを差し引く
株式等も含む広い資産差引 約89% 政府の幅広い金融資産を考慮

207%と89%では、受ける印象がまったく違います。

「日本には1,000兆円を超える借金がある」という負債だけでなく、
その反対側にどの程度の資産があるのかも示した方が、
財政の全体像は分かりやすいと思います。

では「137%」「89%」は海外と比べて高いのか

ここは少し注意が必要です。

総債務はIMFが各国について比較しやすいデータを公表していますが、
「純債務」や「政府金融資産」の範囲は国によって制度や統計上の扱いが異なるため、
207%の総債務ほど単純にランキングすることはできません。

そこで参考になるのが、OECDが公表している
「一般政府純金融負債(General government net financial liabilities)」です。

これは政府の金融負債から金融資産を差し引いて見る指標で、
IMFの137%や89%と完全に同じ定義ではありませんが、
「資産も考慮したら各国の財政はどう見えるのか」を考える参考になります。

純金融負債/GDP
イタリア 約126.2%
米国 約98.4%
フランス 約79.7%
日本 約79.5%
英国 約78.4%
ドイツ 約27.3%
カナダ 約9.0%

※OECD Economic Outlook 118の2026年見通し。OECD自身も、純金融負債は各国の資産・負債の定義や扱いに違いがあり、完全には比較できない点に注意が必要としています。

ここは非常に興味深いところです。

総債務で見ると日本はG7で突出した1位ですが、政府金融資産を差し引くと日本だけが突出して悪いという姿ではなくなります。

OECDの2026年見通しでは、日本の純金融負債は約79.5%。
米国の約98.4%やイタリアの約126.2%より低く、
フランス約79.7%、英国約78.4%とはほぼ同程度です。

総債務だけで見る場合
日本はG7で突出して高い

政府金融資産も差し引いて見る場合
日本だけが突出して悪いとは言えなくなる

これは、会田卓司さんが指摘する
「日本の財政は負債側だけを見ると非常に悪く見える」
という考え方を理解するうえで重要なデータだと思います。

ただし、IMFの89%とOECDの79.5%は、対象資産や評価方法、時点が違います。
したがって「日本の本当の借金は79.5%だ」「89%が正解だ」と一つの数字だけを正解にするのも適切ではありません。

むしろ、
どこまで資産を差し引くかによって財政の見え方が大きく変わる
ということ自体が重要なのだと思います。

ただし政府資産を全部自由に使えるわけではない

注意点もあります。

政府金融資産には、将来の年金給付などを目的として保有されている資産も含まれます。
それらを自由に売却して国債返済や一般予算に使えるわけではありません。

したがって、
「資産があるから政府債務は何の問題もない」
と考えるのも行き過ぎです。

中田敦彦さんと会田卓司さん、なぜ結論が違うのか

ここまで調べると、2人の話がなぜ大きく違って聞こえるのかも見えてきます。

中田敦彦さんの動画では、巨額の政府債務、金利上昇、円安など、
「日本が抱えている財政・金融リスク」に重点が置かれています。

一方、会田卓司さんは、60年償還ルール、政府内部の債権債務、政府金融資産などを含め、
「そもそも日本の財政を測る物差しは適切なのか」
というところから考えています。

視点 重視するもの
財政リスク重視 総債務・金利・利払い・財政負担
会田氏の視点 国際比較・純債務・政府資産・経済成長

私は、どちらか一方だけではなく、
両方の数字を見ることが大切だと思います。

株式投資家にとって、この話はどう関係するのか

ここまで国の財政について書いてきましたが、
この話は株式投資とも無関係ではありません。

むしろ日本株へ長期投資するのであれば、
政府債務、国債金利、名目GDP成長率、円相場は企業利益や株価の前提条件
と言ってもよいと思います。

① 金利上昇は銀行・保険には追い風になりやすい

長期間続いた超低金利から金利が正常化していけば、
銀行は貸出金利と調達金利の差である利ざやを改善しやすくなります。

保険会社にとっても、新たに購入する国債などの運用利回りが上昇することは、
長期的には運用収益の改善につながる可能性があります。

ただし、金利が短期間で急上昇すれば、
保有債券の評価損や景気悪化、企業の借入負担増加につながるため、
「金利上昇=金融株なら何でもプラス」ではありません。

② 不動産・REIT・高PER成長株には金利が重要

不動産会社やREITは借入金を多く利用するため、
金利上昇は資金調達コストの上昇につながります。

また、将来の利益成長を高く評価されている高PERの成長株も、
金利上昇局面では株価評価が下がりやすくなります。

日本の政府債務が本当に金利上昇を大きく制約するのか、
それとも経済成長とともに緩やかな金利正常化が可能なのかは、
株式市場にとって非常に重要なテーマです。

③ 財政余力があるなら「成長投資」に使える可能性もある

仮に「日本は借金が多すぎるから何もできない」という認識が実態以上に悲観的なのであれば、
政府には成長分野への投資余地が残っている可能性があります。

半導体、AI、電力網、データセンター、防衛、インフラ更新、ロボットなど、
民間投資を呼び込む分野に政府資金を使い、
それによって名目GDPや企業利益が拡大するのであれば、
日本株にとってプラスになる可能性があります。

逆に、成長につながらない支出を増やし続け、
国債金利だけが上昇するのであれば話は違います。

投資家として重要なのは「国債を発行したか」だけではなく、

・その支出が名目GDPを増やすのか
・企業利益や設備投資につながるのか
・国債金利より経済成長率を高く保てるのか
・結果として税収が増えるのか

までを見ることだと思います。

④ 円相場を見るうえでも財政の評価は重要

財政への信認が大きく低下すれば、国債や円が売られる可能性があります。

一方で、積極的な投資によって日本の成長率や企業収益力が高まり、
日銀が正常な金利政策を行える経済になれば、
長期的には円の信認を高める方向に働く可能性もあります。

そのため私は、
「政府債務が多い=円安」「財政支出=悪」
と単純に考えるのではなく、経済成長と金利をセットで見たいと思います。

私なら日本の財政をこの5つの数字で見る

「国の借金が1,000兆円を超えた」というニュースだけでは、
日本の財政が本当に危険なのかを判断することは難しいと思います。

  1. 一般政府総債務/GDP
  2. 政府純債務/GDP
  3. 利払い費/税収・GDP
  4. 財政赤字/GDP
  5. 名目GDP成長率と政府の実効金利

特に今後重要になるのは利払い費です。

日本国債は平均残存期間が長いため、市場金利が上昇したからといって政府の利払い費が一気に増えるわけではありません。

しかし古い低金利の国債が順次、高い金利の国債へ借り換えられれば、
時間をかけて政府の平均的な利払い負担は増えていきます。

つまり「借金が多いから財政破綻する」「自国通貨建てだから全く問題ない」という両極端ではなく、
経済成長と税収を増やしながら、金利負担を管理できるか
が重要なのだと思います。

海外と同じ基準を併記した方が分かりやすい

今回調べて、私自身は日本の財政資料について改善してほしいと思う点があります。

日本独自の制度をなくすかどうかとは別に、
国際比較できる数字を必ず併記することです。

  • 国債費:約31.3兆円
  • うち元本償還:約18.2兆円
  • うち利払い等:約13.1兆円
  • 国際比較可能な総債務/GDP
  • 金融資産を差し引いた純債務/GDP

これらを同時に示すだけでも、財政の見え方はかなり変わります。

「借金がこれだけある」と負債だけを強調するのでもなく、
「資産があるから大丈夫」と楽観するのでもない。

海外と同じ物差しでも数字を示し、そのうえで国民が判断できるようにする。

その方が、財政を巡る議論も健全になるのではないでしょうか。

まとめ|「日本は世界一の借金国」だけでは全体像は見えない

  • 2026年度の国債費は約31.3兆円、一般会計の約25.6%
  • そのうち元本償還が約18.2兆円、利払い等が約13.1兆円
  • 米国では国債元本返済を原則として予算上の歳出に含めない
  • IMFは2026年、日本の政府債務を連結・額面ベースへ変更した
  • 新基準では2025年7~9月期の総債務はGDP比約207%
  • 2026年の総債務見通しでは日本は約204.4%とG7で最も高い
  • 通常の純債務ではGDP比約137%
  • 株式等も含む広い政府資産を考慮すると約89%まで低下する
  • OECDの純金融負債では日本は約79.5%で、米国やイタリアより低く、英国・フランスとほぼ同水準
  • ただし政府資産には自由に使えないものもあり、財政問題が消えるわけではない

会田卓司さんの話を聞くと、「日本の借金はこれまで言われてきたほど深刻ではないのでは」と感じます。
一方、政府債務や金利上昇を重視する説明を聞くと、不安になるのも事実です。

今回、公式資料まで確認してみた私の結論は、その中間です。


日本の政府債務は確かに大きい。
ただし、日本独自の予算表示や統計上の扱いによって、実態以上に財政が悪く見えやすかった面もある。

特に興味深いのは、総債務では日本がG7で突出している一方、
政府の金融資産まで考慮すると国際比較の順位が大きく変わることです。

だからこそ――ではなく、だからといって「日本の財政は何の問題もない」と考えるのも危険です。

本当に見るべきなのは、借金の総額だけではなく、
純債務、利払い、名目GDP成長率、税収、そして国債金利の関係ではないでしょうか。

株式投資家としても、これは単なる国の借金の話ではありません。

金利がどう動くのか、円相場がどうなるのか、
政府が成長投資を続けられるのかによって、
銀行、不動産、REIT、成長株、輸出企業などの投資環境も変わります。

「日本は世界一の借金国だから危険」と一言で片付けるのではなく、
数字の中身まで確認しながら日本経済と日本株を見ていきたいと思います。

※本記事は公表資料を基に日本の財政について考察したものです。国際比較では統計の定義や対象範囲が異なる場合があります。特定の政策、政党、投資行動を推奨するものではありません。

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