高配当株や増配株を調べていると、よく目にするのが「配当性向」です。
私も株主還元を見るときは、配当利回りだけでなく「配当性向に無理がないか」を確認しています。
ところが最近、日本企業のIR資料を見ていると、もう一つよく登場するようになった指標があります。
それがDOE(株主資本配当率)です。
「DOE3%」「DOE3.5%を目安」「配当性向またはDOEの高い方」など、
株主還元方針にDOEを取り入れる企業が増えています。
今回はDOEとは何なのか、配当性向とは何が違うのか、
さらにDOEを理解するうえで重要になるROEとは何なのかまで、
できるだけ分かりやすく整理してみます。
DOEは短期的な利益の増減に左右されにくく、
安定配当と相性のいい指標です。
ただし「DOEが高いから安心」というわけではありません。
長期投資では、DOE+利益成長+ROE+財務体質を
セットで見ることが重要だと考えています。
DOEとは?まずは簡単に考えてみる
DOEは「Dividend on Equity」の略で、
日本語では株主資本配当率などと呼ばれます。
配当性向が
「今年稼いだ利益の何%を配当に回すか」
を見る指標なのに対して、
DOEは
「会社に積み上がっている株主資本に対して、どのくらい配当を出すか」
を見る指標です。
この違いが、DOEを理解するうえで非常に重要です。
配当性向とDOEは何が違う?
利益が大きく増減すると、配当額にも影響が出やすくなります。
株主資本は通常、1年間の利益ほど激しく増減しないため、
短期的な業績変動の影響を受けにくい特徴があります。
例えば純利益100億円の会社なら
純利益:100億円
配当性向:30%
→ 配当総額は30億円
ところが景気悪化などによって、翌年の純利益が50億円に半減したとします。
配当性向30%をそのまま適用すると、
配当総額は15億円になります。
配当を受け取りながら長期保有する投資家にとっては、
これでは配当が安定しません。
一方、DOEの場合は分母がその年の純利益ではなく株主資本です。
株主資本は通常、利益のように1年間で半分になったり倍になったりするものではありません。
そのため、一時的に利益が落ち込んでも財務的な余力があれば、
配当を比較的安定させやすくなります。
そもそもROEとは?難しそうですが考え方はシンプル
DOEについて調べると、途中で必ずと言っていいほど
「ROE」という言葉が出てきます。
ROEは投資を始めたばかりの頃には、
少し分かりにくい指標かもしれません。
しかし、考え方はそれほど難しくありません。
「株主のお金を使って、会社がどれだけ利益を生み出したか」
を見る指標です。
ROEは「Return on Equity」の略で、日本語では
自己資本利益率と呼ばれます。
計算式だけ見ると難しく感じるかもしれないので、
具体例で考えてみましょう。
株主資本1,000億円で100億円稼いだ会社なら?
株主資本:1,000億円
純利益:100億円
ROE:10%
つまり、
株主資本100円に対して、1年間で10円の利益を生み出した
と考えると分かりやすいと思います。
同じ1,000億円の株主資本を持つ会社でも、
50億円しか利益を出せなければROEは5%です。
反対に150億円の利益を出せればROEは15%になります。
「資本を効率よく使っている」と考えることができます。
ROEは高ければ高いほど良い?
ここで「それならROEが高い企業だけ買えばいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、そこまで単純ではありません。
ROEは自己資本が少ないほど高くなりやすいため、
借入金を多く使って事業を行っている会社では、
ROEが高く見えることがあります。
また、一時的な特別利益などによって純利益が大きく増えれば、
その年だけROEが急上昇することもあります。
というわけではありません。
長期投資では、ROEの数字だけを見るのではなく、
利益が継続的に増えているか、借金が多すぎないか、何年も安定してROEを維持できているか
まで確認したいところです。
DOEとROE、配当性向は実はつながっている
ROEが分かると、DOEが一気に理解しやすくなります。
DOE、ROE、配当性向は別々の指標に見えますが、
おおまかには次のような関係があります。
例えばROEが10%、配当性向が30%の会社なら、
これはかなり重要な関係です。
ROE10%ということは、株主資本に対して10%の利益を生み出している。
その利益の30%を配当に回すのであれば、
株主資本に対して約3%の配当を行うことになります。
ROE = どれだけ効率よく利益を生み出しているか
配当性向 = その利益をどれだけ株主へ配るか
DOE = 株主資本に対してどれだけ配当するか
こう考えると、それぞれの指標の役割がかなり分かりやすくなります。
なぜ今、DOEを採用する日本企業が増えているのか
DOEが注目されている背景には、日本企業の株主還元そのものが変化していることがあります。
東京証券取引所は2023年3月、プライム市場とスタンダード市場の上場会社に対して、
「資本コストや株価を意識した経営」を求めました。
単純に増配や自社株買いをすればいいという話ではなく、
企業が保有する資本を効率よく使い、中長期的に企業価値を高めていくことが求められています。
その流れの中で、企業側も株主還元方針を以前より明確に示すようになってきました。
配当方針などを変更した企業:263社
DOEを採用:60社
累進配当を導入:52社
こうした動きを見ると、
DOEや累進配当を株主還元方針に取り入れる企業が増えていることが分かります。
単年度の利益だけではなく、
中長期的に安定した株主還元を行う姿勢を
打ち出す企業が増えているとも考えられます。
実際にDOEを採用している企業を見てみる
実際の企業を見ると、DOEの使い方にも違いがあります。
SUBARUは配当を株主還元の基本と位置づけ、
DOE3.5%を設定しています。
累進的な配当を目指しながら、業績や市場環境などに応じて
自己株式取得も行う方針を示しています。
三菱製鋼は2027年3月期から2029年3月期までの株主還元方針として、
DOE3.5%を採用しています。
単年度の配当性向だけでなく、株主資本を基準にした
安定的な株主還元を意識した方針です。
青山商事はさらに特徴的で、
を株主還元方針としています。
このように最近では、単純に「DOE○%」とするだけではなく、
DOE+累進配当、DOE+配当性向、DOE+自社株買い
といった複数の株主還元方針を組み合わせる企業も見られます。
DOE採用企業なら減配しないのか?
ここは注意しておきたいところです。
DOEを採用しているからといって、減配しないとは限りません。
DOEはあくまで株主資本に対する配当の割合です。
業績悪化が長期間続いて利益剰余金が減少すれば、
株主資本そのものが減っていく可能性があります。
巨額の損失を計上したり、財務状況が大きく悪化したりすれば、
企業が株主還元方針そのものを変更する可能性もあります。
短期的な利益変動による配当のブレを小さくしやすい仕組み、
と考える方が適切でしょう。
DOEと累進配当はどう違う?
最近はDOEと並んで「累進配当」という言葉もよく見ます。
株主資本に対して一定割合を配当する考え方。
株主資本が増えれば、同じDOEでも配当額が増えやすくなります。
一方、株主資本が減少すれば配当額が下がる可能性もあります。
原則として配当を減らさず、
維持または増配していくことを目指す株主還元方針です。
配当の安定性という意味では累進配当は非常に分かりやすい方針ですが、
もちろん永久に配当が保証されるわけではありません。
私はどちらか一つだけを見るより、
DOEや累進配当を維持できるだけの利益と財務基盤があるのか
を見る方が重要だと思います。
増配投資家ならDOEだけでなく「利益成長」を見たい
DOEは非常に興味深い指標ですが、
私が株式投資で一番期待したいのは、
企業が利益を伸ばし、その結果として配当も増えていくことです。
この流れが理想ではないでしょうか。
例えばDOE3%を維持している会社でも、
株主資本が1,000億円から1,500億円、2,000億円と成長していけば、
配当総額も増えていく余地があります。
逆に、利益が伸びていないのに高いDOEだけを掲げて配当を出し続けているのであれば、
いつか無理が出る可能性があります。
大切なのは「DOEが何%か」だけではなく、
そのDOEを支えている利益が成長しているかを見ることです。
私ならDOE採用企業のここを見る
① EPSは長期的に増えているか
EPSは1株あたり利益です。
配当の原資は最終的には利益なので、まず利益そのものが成長しているかを確認します。
② ROEは安定しているか
株主から預かった資本を使って、継続的に利益を生み出せているかを確認します。
1年だけ高いのではなく、何年も安定している方が安心感があります。
③ 配当性向は高すぎないか
DOE採用企業でも、実際の配当性向が極端に高くなっていないか確認したいところです。
利益のほとんどを配当に回している状態が長く続けば、将来の増配余力が小さくなる可能性があります。
④ 株主資本は増えているか
利益を積み重ねて株主資本が成長していれば、
同じDOEでも将来の配当増加につながりやすくなります。
⑤ 借金が増えすぎていないか
ROEは借入金を多く使うことで高く見える場合があります。
自己資本比率や有利子負債なども確認したいところです。
⑥ DOE以外の還元方針も確認する
累進配当、総還元性向、自社株買い、配当下限なども合わせて確認します。
「高配当株」より「将来高配当になる株」を探したい
私が長期投資で面白いと思うのは、
今の配当利回りが最も高い会社だけを探すことではありません。
今は配当利回り3%程度でも、
利益が増え、増配を続け、
10年後には取得価格に対する配当利回りが大きく上昇している。
そんな企業を長く保有できれば理想的です。
DOEは「今いくら配当を出しているか」だけではなく、
将来の配当を考えるためにも使える指標です。
利益が増える企業であれば、利益剰余金が積み上がり、
株主資本も増えやすくなります。
株主資本が増えながら一定水準のDOEを維持できれば、
配当総額も増えていく可能性があります。
つまり、「配当+増配+利益成長」という考え方と、
DOEはかなり相性が良い指標だと思います。
まとめ|配当性向だけでは見えないものがDOEにはある
高配当株を見るとき、
「配当利回り」「配当性向」「増配実績」を確認する人は多いと思います。
そこにDOEとROEを加えると、
企業の株主還元をもう一段深く見ることができます。
・配当性向=利益の何%を配当に回しているか
・ROE=株主資本を使ってどれだけ利益を生み出したか
・DOE=株主資本に対してどれだけ配当しているか
・DOEは短期的な利益変動の影響を受けにくい
・DOE採用企業は増えている
・DOEを採用していても減配が保証されるわけではない
・利益成長、ROE、財務体質とセットで見ることが重要
特に増配を期待して長期保有するのであれば、
「DOEが高い会社」ではなく、
「利益と株主資本を増やしながらDOEを維持できる会社」
を探したいところです。
私自身、今後企業の決算資料を見るときには、
配当利回りや配当性向だけではなく、
DOEとROEの関係にも注目していこうと思います。
特定銘柄の売買を推奨するものではありません。
株式投資には元本割れのリスクがあります。
実際の投資判断は、ご自身の責任でお願いいたします。
・東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」
・大和総研「2025年上半期の配当方針等の変更と株価」
・SUBARU「株主還元」
・三菱製鋼「株主還元・配当」
・青山商事「株主還元方針」
※各企業の株主還元方針は今後変更される可能性があります。



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